『蛇の告白』

……そんな顔、しないでほしいな。これでも、結構僕は、傷つきやすいんだから。

わかってるよ、利用されたことは。
あの人は少し長くここに居過ぎた。敵を作らずには生きていけない人なのにね。
誰もが、あの人を畏れながら、恐れていた。……実の息子でさえ。
……わかってるよ。僕なんて、どうせ、誰にとっても、「あの人の息子」でしかない。
そんなこと、どうでもいいんだ。……君なら、わかるだろ?
 
君が怒るのは、無理もない。
僕は、君の生涯の目標を、奪ってしまったんだから。
でも、君が怒ってるのは、僕のことじゃない。
君は僕なんか見ていない。
いつだって、僕の向こうのあの人を見ている。あの人に叶わない自分を見ている。
……僕と、同じように。
 
あの人はきっと、僕が付けた小さなひっかき傷なんて、意にも介さずに生きていくんだろうね。
きっと、これからも、悪夢のように永い生を。
僕たちが生まれて、生きて、死んでいく時間なんて、軽々と踏み越えて。
 
……それでもいいと、思うことにしたんだ。
そうしなければ、僕は生きていけないから。
そうして、僕は全てを諦めて……代わりに君から全てを奪った。
 
君と僕は、同じだ。本当ならきっと、一つの世界に存在し得ない、してはいけない鏡像だ。
僕たちが求めるものは同じ、この世界に一つしかないもの。
僕が手に入れたものを、君は手に入れることができない。
 
……わかるよ、許せないのは。
僕は一人で、諦めた。
それなのに、まだ、君にしがみついている。
 
 
――でも、それでも君は、僕を捨てられないだろう?
 
 
……わかってるよ。
きっと君は、すぐにここを離れていく。
君の、たった一つの目標は、もうここにはないんだから。
 
それでも僕は、君を待ち続ける。
僕はそうやって生きていく。
……そう、決めたんだ。
 
君が、ここに――
戻って来ても、来なくても。


――end.