「全く……こんな所で顔を見るとは思わなかったわよ。何を考えているんだか」
「何を考えてるのかはこっちが聞きたいですけど、聞いてもわからないのは知ってるのでやめときます」
「言っておくけれど、私のことはあまり人に話さないことね。こんな弟がいるなんて思われたくないし」
「実際、弟なんだから、しょうがないじゃないですか。……あんまり話さないから、安心して下さい。特に、リヴァのことは」
「当たり前よ。あの子はリードの子、母親は不明。それでいいの」
「……姉上の選択ですから、今さらどうこう言いませんけど」
「で、あの子、元気にしてる? 大きくなった? 病気なんかしてない? リード一人でちゃんと育ててる?」
「心配なら帰ったらいいじゃないですか……」
「心配なんかしてないわよ。私の子だもの」
「まあ、元気なのは元気ですよ。あれでも、頑張ってますよ、義兄上」
「ちょっと待ちなさい。あにうえって誰よ」
「僕の甥っ子の父親です」
「……フン」
「正直、仲良くなれる相手じゃないですけどね。……すごく見せ辛いんですけど、いつの間にかこんなものが鞄の底に入ってまして」


僕のファーレンディアへ
    君のリード・シルフェルより

拝啓
 ちらほら雪も降る季節となっておりますが、いかがお過ごしでしょうか。お陰様で、こちらは皆、変わらず元気でやっております。
 リヴァも大分大きくなりました。年が明ければ2歳になります。言葉などもいくらか覚え、あちこち動き回るようにもなりました。すくすく元気に育っています。ただ、時折、悲しいことがあると、泣きながらママ、ママ、と呼んで歩き回ることなどもあります。そんな時、僕にはどうすることもできず、心が痛むばかりです。
 子育てに当たっては、一人ではどうしようもないことも多々あるのですが、君のご両親やアーニー君の助けもあり、どうにか毎日、無事に過ごしております。
 最も、そのアーニー君も、君を追って街を出るつもりでいるようで、少々不安にも思います。けれど、君にもアーニー君にも、そうせざるを得ない理由というものがあるのでしょう。お二人のご健勝ご活躍、陰ながらお祈りしております。
 そうそう、君が家を出る前から、僕が取りかかっていた研究。やっと、発表できる段階まで漕ぎつけました。これも全て君のお陰です。君にはどんなに感謝しても足りません。できることなら直接会って、抱きしめて、心からのお礼と愛の言葉を、百万回でも贈りたいけれど、君はまだここに戻っては来ないのでしょうね。そんな君を愛しているのだから、仕方がないのですが。
 いつも君を想っています。君に会えないのは寂しいけれど、遠くから君の夢を応援しています。でも、もし寂しくなったら、いつでも帰ってきて下さい。
 リヴァは日に日に可愛く、賢くなっています。彼に君と僕のことをどう教えていけばいいか、不安ながら楽しみでもあります。君と僕がどんなに愛し合って、君がどんなに命懸けでリヴァを産んだのか。彼に教えてあげる日が楽しみです。
 勿論、君が彼の母親であることは、あまり人に言わないようにと言い聞かせるつもりなので、その点は安心して下さい。
 書きたい事は尽きませんが、今回はこのあたりで筆を置きます。どうか、お元気で。アーニー君にもよろしく。
敬具

追伸
 この手紙に、僕とリヴァの髪の毛を同封しました。僕の髪は人形の中にでも、リヴァの髪は飾り紐にでもして貰えたらと思います。

追追伸
 愛してるよ××××

「アーニー、火」
「……気持ちはよぉーくわかるけど、せめて外に出ましょう」

***

「こうして見ると髪の色合いが違うわね。やっぱりこちらに似ているわ、あの子」
「母上が言ってましたよ、僕の小さい頃によく似てるって」
「馬鹿言わないで。リヴァの方が百万倍可愛いに決まってるじゃないの」
「……母上は千倍で許してくれたんですけどね」
「親馬鹿もいいところね」

***

「出来ましたよ、姉上。とりあえず、組み紐に編み込んでみました」
「……ふぅん。まぁ、悪くないわね」
「で、そっちは人形に入れるんですか?」
「そんな物混ぜたらストローくんが可哀想でしょう。もう一つ作りなさい。適当でいいから」
「作るのはいいですけど、どうするんです?」
「無論、ズタズタになるまで肌身離さず身につけてやるわよ。糸が解れるたびにあいつの体に激痛が走るとか、想像したら楽しいでしょう?」
「姉上……怖いんだか微笑ましいんだかわかりません」

***

「……それにしても。本当に本気なの?」
「本気というか、ヤケというか。これまで通りに生きていくのは、無理だと思いました」
「……ふぅん。まぁ、精々、頑張りなさいな。リヴァとお揃いにならなければいいけれど」
「頑張りますよ。努力だけが取り柄ですから。僕は、姉上と違って、天才じゃありませんからね」
「……フン」